「未来を作っていくことを考えよう」村田諒太選手、全国のボクシング部の高校生へエール
公益財団法人全国高等学校体育連盟とインハイ.tvは、インターハイ全30競技の部活動を行う高校生に向け、アスリートや全国の有志がエールを送る「明日へのエールプロジェクト」を開始。
第1弾として、ボクシングWBA 世界ミドル級王者の村田諒太選手が5月26日(火)、全国の高校生アスリートや高校の部活指導者に向けたオンライン授業を行った。

新型コロナウイルスの影響は、もちろんスポーツの世界にも及んでいる。2020年のインターハイも中止となったが、スポーツに励む高校生にとって、インターハイにチャレンジできる機会は、そう何度もあるものではない。
そんな状況下に置かれた全国の高校ボクシング部のキャプテンや代表と村田選手が、この状況をどう受け止めていけばいいのかを語り合い、その様子は、全国にLIVE配信された。
輝かしく見える“高校5冠”達成も、実は「悔しい思い出」

まず、村田選手はボクシングを始めたきっかけについて、「中学生の時に学校でやんちゃしていたので、中学校の先生に『お前、ボクシングでもやってみろ』と言われて、連れて行ってもらったのが、きっかけでした」と回顧。練習が厳しく、ボクシングを始めて2週間で逃げ出したという。
高校時代も、監督が厳しく、真面目に練習せざるを得なかったという村田選手。高校2年で、選抜大会・インターハイ・国体で3冠を達成。高校3年の時には、選抜大会とインターハイを制し、高校5冠を達成し、全国的に名前が知られるようになった。
しかし、村田選手にとって、「高校5冠」は、悔しい思い出だったのだとか。というのも、当時すでに1歳年上の粟生隆寛が「高校6冠」という高校記録を打ち立てており、村田選手も順調にタイトルを獲得し、高校3年の国体で優勝すれば、同じ記録に並ぶというところまできていた。
だが、国体近畿予選の団体戦で、村田選手の京都チームは突破することができず、国体の出場を逃してしまったのだ。
「今でも覚えてますけど、僕の一階級下の子が近畿大会の決勝で試合をして、その子が勝ってくれて、僕が勝てば、3位で通過して高校6冠にチャレンジする権利を得れたはずだったんです。でも、その子が、無茶苦茶な判定で負けにされたんです。ダウンまで取って、どう考えても勝っている試合で負けにされて、僕は高校6冠ができなかった」
村田選手は、国体に出ることができなかった経験もあり、インターハイが中止になってしまった現役の高校生たちの悔しい気持ちが「少しは分かる」という。
しかし、「高校6冠という記録は達成できなかったけど、全日本選手権に出て、優勝すれば、変則的だけど高校6冠したことになるじゃないか」と目標を違うところに変えて、モチベーションを保ち、挑戦したことは自分の誇りだという。
「あの時、気持ちを切り替えてチャレンジしたということは、今のチャレンジ精神にもつながっているんじゃないかと思う」と、自身の高校時代を振り返った。
「特別なことをするのが難しいのではない」輪島功一の金言を絡めて高校生にアドバイス

オンライン授業では、参加した全国各地の高校生が、村田選手へ質問をするコーナーも。
「今まで、どんな練習をしてきてここまで上り詰めることができたんですか?」という女子高生の質問に対し、村田選手は「世界チャンピオンに教えてもらうとか、有名な選手に教えてもらうとなると、何か魔法みたいな特別なやり方を知っていると思って、教えてもらおうとするのですが、実はそんな特別な方法はないんです」と答え、元プロボクサーの輪島功一の言葉を取り上げた。
「『特別なことをするのが難しいのではなくて、簡単なことを毎日続けるのが難しい。それができた人間がチャンピオンになるんだ』と、(輪島さんは)おっしゃっていて。毎日ちゃんと走るとか、教えられたことを毎日ちゃんとやることで積み重なっていく。特別なことをやったから成功したとは思わないほうがいいと思います」とアドバイス。
「今の村田選手の話を聞いて燃えました」と、質問をした女子高生は笑顔を見せた。
高校でボクシングを辞めようと思っていた中でのインターハイ中止に困惑する高校3年生。村田選手がかける言葉は…

また、高校卒業でボクシングを辞めようと考えていて、2020年のインターハイが最後の出場のチャンスだったという高校3年生の男子生徒から、「僕は、これから何を目標にしてやっていけばいいと思いますか?」と問われた村田選手は、「この質問が来たら一番困るなと思っていた」と率直な気持ちを吐露。
しかし、続けて「僕、思うんですけど、物事って、『これが良かった』『悪かった』っていうことは、後から判断できると思うんです。歴史とかもそうだけど、現在から見た過去なんですよね、全部。この悔しい気持ちとか、やるせない気持ちとかも、将来、成功して満足する自分がいれば、『あんな気持ちがあったから、俺はここまで来れたんだ』と思えるわけです」と、自身の考えを提示。
さらに、「将来、自分が何かを掴み取った時に、『高校3年生のインターハイに出れなかった。あんな悔しい思いをしたから、今の俺がいるんだ』と言えるかどうかは、未来の自分にしか、かかっていないと思うんです。『今インターハイがなくなってしまったから、こういう気持ちで(いよう)』というよりかは、未来を作っていくことを考えたほうがいいのかなと思います」とエールを送った。
この出来事をどう捉えるかを再認識した
オンライン授業終了後、村田選手は記者のオンライン取材に応じ、今回の授業の感想について、「今日のお話をさせてもらった子たちは、ものすごく前を見ていて、ものすごく大人だなと思いました。本当に心配なのは、こういうものに参加せずに、この出来事(コロナ禍の影響)をとてもネガティブに捉えている子たち」と、コメント。
「自分の中でも、この出来事をどう捉えるのかを再認識する上でいい機会だったなと思います」と、講義を振り返った。
村田選手自身の今後の目標については、「後悔はしたくないですね。興行が再開されて、『動けません。負けました』となれば、病気になる、ならない以前に、コロナに負けてしまっていると思います。北京五輪に出れなかった時のような、後悔の気持ちをもう一度味わいたくないというのが、今のモチベーションではありますね」と語った。