老舗書店店主・二村知子が自身に課す“セブンルール”「書店とは、地域に貢献するコミュニティの場」
9月1日(火)放送『セブンルール』
視聴者が“今最も見たい女性”に密着し、自身が課す“7つのルール=こだわり”を手がかりに、その女性の強さ、弱さ、美しさ、人生観を映し出す新感覚ドキュメント『7RULES(セブンルール)』。
9月1日(火)放送回では、“読書の秋”にちなんだ「頑張る書店応援スペシャル」の1週目として、大阪の老舗書店「隆祥館書店」店主・二村知子(ふたむら・ともこ)に密着。
13坪の小さな書店ながら、時には書籍別売上で大型書店やAmazonを超えることも。1000人もの客の好みを熟知し、その人に合う本を提案する「本の目利き」として人気を集める彼女のセブンルールとは。
ルール①:来店したお客さんには必ず声をかける
二村は毎朝8時ごろ、自社ビル1階の隆祥館書店に出勤する。彼女の他に社員1人とアルバイト3人で店を回している。
13坪の敷地に置いてある本はさまざまで、雑誌や文庫もあれば、「鬼滅の刃」 のような人気コミックまで。中でも、彼女が読んで感動した小説やノンフィクション作品が並べられた、入り口付近の棚が、この店の最大の特徴だ。新刊やベストセラーではなく、彼女がいいと思ったものだけを置いているという。
店の営業時間は通常、朝8時30分から夜10時まで。開店し、入ってくる客に次々と声をかけていく。そして、オススメを求めてきた客に、自作のチラシを用いて本を紹介し始めた。「最近の私の一推し」と、彼女が勧めたのは、終末医療の現場を描いたノンフィクションだ。
丁寧な説明を受け、その本を購入した客は、「隆祥館さんが選ばれる本って、Amazonとかだと、自分では見つけられない本ですし。やっぱり来たくなる」と話す。
「お客さんの今置かれてる状況とかを聞くことで、自分の頭の中にある本がお薦めできることがあるから」と、彼女は来店客には必ず声をかけることを心がけている。その結果、Amazonや大型書店を超える、この店だけのベストセラーを多数生んでいるのだ。

ルール②:本の肝は付箋にメモする
1ヵ月に20冊もの本を読むこともあるという彼女の読み方には、ある特徴がある。定規を使って本に赤線を引き、さらに、メモした付箋を貼り付けていく。
気になった箇所、心が動かされた箇所は、必ず線を引いて、思ったことを付箋にメモして貼り付けておく。「このフレーズを読んだら絶対にみんな力をもらえるっていうところは、自分の中の血や肉にしたい」のだという。
最近お気に入りだという本を、番組スタッフに説明し始め、その内容を熱く語ること15分。「今のお話で、もう本を読まなくていいぐらい…」とスタッフが指摘すると、「いつも、言っちゃったらダメなところまで言ってしまって。途中で止めなあかんのですよ、本当は」とバツが悪そうに笑った。
ルール③:人を傷つける本は置かない
隆祥館書店は、1949年に父、善明(よしあき)さんが開業、その長女として彼女は生まれた。書店とは地域に貢献するコミュニティの場だ、というのが父の教え。
5年前に亡くなった父から引き継ぐ形で、現店主になった彼女。父の遺志のもと、どんなに売れていても置きたくない本がある。それは、隣国を差別的に非難するようなヘイト本の類。
「やられて嫌なことは人にもしたくない。売れるから作るんじゃなくて、本当に伝えたいものを書く、それがいいから人に伝える」。父の遺志を引き継いだ、彼女の大事にしているルールだ。
彼女は9年前から、月に2回ほど、店に作家を呼んでイベントを行なっている。これも、書き手と読者を繋げ、地域に貢献するための活動の一つ。
ルール④:毎週火曜日はシンクロナイズドスイミングを教える
かつて、シンクロナイズドスイミングの日本代表として、世界大会でも銅メダルを獲得したことのある彼女。毎週火曜日は、近くのプールで、シンクロをやりたい一般の人たちの指導をしている。
「嫌なことがあっても、シンクロの時間だけは、本当に無になるというか。私にとってはリフレッシュできる時間なのかもしれない」と話す彼女。生徒もまた、「先生はいつも厳しいんですけど、生きがいみたいなのを与えてくれたり。始めてよかったなと思います」と笑顔を見せる。
気心の知れた生徒たちとシンクロに打ち込む時間が、彼女の癒しになっている。

ルール⑤:子どもは「井村イズム」で育てる
シンクロ日本代表選手時代に彼女を指導したのは、井村雅代氏。日本代表、中国代表を率いて、オリンピックでも数々のメダルを獲得した世界的な指導者だ。
「どんどん下の選手に追い上げられて来そうなときがあって、『もうこれは、自分の限界じゃないかな』って思ったんですよ。そのときに先生が『あんたの限界はあんたが決めるんじゃない、私が決める』って(言われた)」と、当時を振り返る。
決して諦めないという井村氏の教えは、その後の彼女の生き方を変えた。
一人娘の真弓さんが10歳の時に離婚。以来、女手ひとつで育ててきた娘にも、「努力しないと結果は出せない」という“井村イズム”を教え込んだという。
「勉強しないと自分がなりたいものになれない」という教えのもと、厳しく育てられた真弓さんは夢を実現し、臨床心理士の資格を取得した。今では月に1度、隆祥館で母と一緒に子育ての指導をしている。
ルール⑥:夜7時から8時は家で夕ごはんを食べる
隆祥館の営業時間は夜10時までだが、夜7時前になると、彼女は一度自宅へ帰る。
2年前、心臓の病気で手術を受けた彼女。食事と睡眠をしっかりとるよう、医師から注意を受け、娘の真弓さんからも「お母さんがいなくなったらお店は続けられない」と言われたそう。
店を長く続けるためにも、彼女は規則正しい生活を送っている
ルール⑦:街の本屋であり続ける
二村が最近始めた新たな取り組みがある。1万円分の本をセレクトしてお客さんに送るサービス「1万円選書」だ。
もともと北海道の書店から始まったもので、20項目に及ぶ質問事項に記入してもらい、その人に合うと思う本を彼女が選ぶという。
隆祥館を、厳選した本だけを並べるセレクトショップにしようと考えたこともあったという。しかし、本を楽しみにしている子どもたちの存在が、彼女を思いとどまらせた。
あるときは、小さな子どもがお小遣いを握りしめ、少女向けの月刊漫画誌を買いにやってくる。「このままの“街の本屋”で、小さいお子さんからお年寄りの方まで、みんなが来てくださるような、そのお店のままで居続けようと思ってるんです」。そう話す彼女。
小さいときから来てくれている子どもが大人になって、隆祥館を助けてくれることもある。「本の力で奇跡を起こせるんじゃないかなと思って」と、本の力を信じ、今日も彼女は小さな書店に立ち続ける。
※記事内、敬称略。
次回、9月8日(火)の『7RULES(セブンルール)』は、書店「文喫」副店長・林和泉に密着。“入場料がある”ことで話題を集める書店の仕掛け人でもある、彼女の7つのルールとは。