<試写室>解決を遂げるばかりではないのに視聴後感はいつもあったかい…『さくらの親子丼』の誰にも解明できない“味”
10月17日(土)23時50分~スタート!オトナの土ドラ『さくらの親子丼』
「呪い」「血しぶき」「生首」満載で、爆速ハイテンションホラーで、ヘトヘトになっても癒されることはなく、“すりこ木”から描写するほど丁寧に“ゴマミルクコーヒー”をこしらえても怪しすぎて飲んでみたい!とはならなかった、あの『恐怖新聞』から一変!
“ハートウォーミング”で、“癒されて”、もう日曜またいじゃってる深夜なのに“飯テロ!!”で、翌日スーパーから卵と鶏肉がなくなること間違いなし!の、『さくらの親子丼』始まりまーす!
もう “安定感”と“安心感”しかない、“さくらさん”がこのクールにドーンと待ち構えていたからこそ、『ママがも一度恋をした』(本上まなみママが塚地武雅ママに入れ変わるトンデモラブコメディ)→『隕石家族』(隕石が落ちてくる終末世界を描いたホームコメディ)→『13(サーティーン)』(13年間監禁されていた少女のサスペンス)→『恐怖新聞』(先述)という、「オトナの土ドラ」ラインナップ2020!だったんでしょうね。本当にありがとう!さくらさん!!(って、その前4作が問題児みたいな言い方だけど、その4作は他の追随を許さない異色作!どれも見て損はしませんよ!!)
さて、そんな(どんな?)『さくらの親子丼』ですが、シーズン3に突入です。
だけど、これまでを知らない方もご安心あれ。タイトルに「3」ともなんとも書いてないとこからもそうですが、『さくらの親子丼』ファンはもちろんのこと、初めての方も視聴になんら問題なく、ちゃんと楽しめる第1話に仕上がっております。
タイトル通り、主人公の真矢ミキさんが演じる九十九さくらが、“親子丼”を作る=“食べること”によって、行き場をなくした子どもたちを笑顔にしていく…そんなお話。
え?ちょっと…ぶっちゃけ…地味じゃない?って思ったあなた!…そう、それは過去の僕でもあります。だけどね、それがまたね、一見地味ではあるよ?あるんだけど、もう見始めたら止まらないんです。
毎回気になるエピソードで丁寧に物語は紡がれていくから最後まで見入っちゃうし、ラストにちゃんと次回へ向けてのフックも用意してあるから、連ドラとしての面白さもしっかり味わうことができる…そんな作品です。

そして何より“さくらさん”の造形が素晴らしいんですよ。
このドラマは様々な子どもたちとのふれあいを指導者的な存在の主人公を通じて描くので、どこか学園ドラマ的な雰囲気もあるんだけど、中でもさくらは『金八先生』のような包容力があり、『ごくせん』の“ヤンクミ”みたいなたくましさもあり、だけど生徒で子どもたちのような無邪気さもかわいらしさもあって、なおかつ、時にお母さんであって、時にお姉ちゃん…アネキにもなれるっていう、そんな絶妙な見え方をする主人公なのです。
そしてそれはシーズン1で描かれた“さくらの家族の過去”あっての深みでもあるんだけど、それを知らなくても、さくらが背負っている哀しみと強さ、弱さを、真矢ミキさんだからこそ、丁寧に表現できているのです。
また、“さくらの親子丼”によって、行き場をなくした子どもたちを、“救う”って話ではなく、“笑顔にしていく”っていうのがポイント。諭したり啖呵切ったりで子どもたちを導いていく…、なんならうまい親子丼さえ出しとけば何でも解決!みたいな、どこか強引で説教じみたお話では全然なくて、親子丼はこのドラマの重要なエッセンス。そのあったかくて美味しい料理によって、子どもたちをひとときでも安心して笑顔にさせる…そのことで好転することもあれば、うまくいかないことだってある…そんなリアルをしっかり描いているからこそ、見入ってしまう作品になっているのです。

っというわけで、今回の『さくらの親子丼』も、らしさがこれでもかと詰まった初回でした。
今回さくらの前に表れるのは、東大入学を義務付けられ、成績が落ちると心理的にも肉体的にも虐待されていたという“教育虐待”を受けた少女(永瀬莉子)。この少女のエピソードを通して、ドラマの舞台となる“子どもシェルター「ハチドリの家」”がどんな仕組みなのか、どんな場所なのか、自然と紹介。

また今回、新たに加わったメンバーで新人弁護士の雪乃(新川優愛)が登場し、前作まで同じ立場だったさくらと対比することで、さくらの成長と、雪乃のまっすぐすぎる正義感が時に危うさとなる…という部分を、決して大げさではなく丁寧に慎重に、お話が進められていくのです。

特に、“子どもシェルターは誰にも知られてはいけない”というルールがあり、それを表すエピソードが前半に描かれるのですが、後半の重要なシーンでその描写があったからこそ視聴者はまんまとミスリーディングされ…「はいはいこういう展開でしょ?」っていうのをひっくり返し、前半に提示されていた“少女はなぜ今まで逃げることをしなかったのか?”という答えをあぶりだしてくる展開が見事。

この初回を見ただけでも、これまでの『さくらの親子丼』が、いかに安易に物語を進めてこなかったか?いかに丁寧だったか?がわかると思います。
そして何より、そこで迎えるラストが決して大団円のハッピーエンディングでない点が、この先、このエピソードの続きが用意されているに違いないと予感させ、次も見続けたい!と思わせるのです。
で、ここまでのあらすじ見て…このどこがハートウォーミングで癒されるのかって?それは……わからんのです。
毎回のエピソードは重いし、見事な解決を遂げるばかりではない…のに、視聴後感はいつもなぜかやさしくあったかい…。きっとそれこそが『さくらの親子丼』がシーズン3も続く、誰にも解明できない“味”…なんでしょうね…。
っとここで一つ訂正があります。前作を観ていなくても問題なし…と言ってしまいましたが、一点だけ、頭の片隅に入れておいた方が“より深く物語を味わえる”シーンがあります。それは何気ない“あるシーン”に隠されていて、子どもシェルターのスタッフは“抱きしめてはいけない”=母親代わりには決してなれない…という点です。このことは第2シーズン終盤でキーとなる出来事なんですが、それが今回“あるシーン”で再び登場し、改めて問題提起してきます。この部分、今後の『さくらの親子丼』を見守る上でもかなり重要なシーンになっていると思うので、是非、その部分だけ注意して見守ってもらえると、よりドラマが楽しめると思いますよ。

最後に、今回、『さくらの親子丼』で、まさか!さくらの恋模様も描かれそうです!
…だけど、そのお相手が鶴見辰吾さん演じる地域役員の岡林。…つまり、どっちに転ぶか分からない、不穏なキャスティング!(鶴見さんに失礼)
この恋愛パートが今後、どんな展開を見せるのか…っていう意外過ぎる新たな楽しみも増えてきて…、やっぱり今回の『さくらの親子丼』も見逃せなくなりそうです!
text by 大石 庸平 (テレビ視聴しつ 室長)