プロのヲタク・あくにゃんが初めての著書を出版「印税は推しにつぎ込みます!」
「推しがいなくなっても、僕はずっと現場(ここ)にいる」(主婦の友社刊)発売中
ヲタクYouTuberの“あくにゃん”こと阿久津愼太郎が、初めての著書「推しがいなくなっても、僕はずっと現場(ここ)にいる」(主婦の友社刊)を出版した。
2008年に芸能界デビューした阿久津は、大手芸能プロダクションの俳優集団に属し、ドラマ、映画、バラエティと活躍したが、2016年に芸能界を突如引退。大学卒業後は一般企業に就職し、会社員としてのかたわら、あくにゃん名義でヲタ活を行っている。
今回、フジテレビュー!!では、そんなあくにゃんを取材。週8で現場(ライブやリリースイベントなど、アイドルが活動を行っている場所のこと)に通い詰めて目にしたヲタクのリアルを赤裸々に綴った同書の裏側、ヲタクとしての生き方の指南などをインタビュー。
現ヲタク、元ヲタク、そして、これから現場へ出ようとしているヲタクの卵たちへ向け、プロとしての思いを明かしてくれた。
ヤバいヲタクにフォーカス。ヤバすぎて審査落ちした人も(笑)

――初めての著書が3月17日に発売されましたが、反響はいかがですか?
最初は僕のまわりだけだったんですけど、ジャニヲタ(ジャニーズヲタク)、Kぽヲタ(K-POPヲタク)、スタダヲタ(スターダストプロモーションヲタク)、いろんな方が読んでくださり、さらにその方たちがお友達にも配ってくださって、いろんな界隈に広がっていることを実感しています。「親子で読みました」というコメントもいただいて、うれしい限りですね。
――どんな経緯でこの本を執筆することになったのでしょうか?
主婦の友社さんから「本を書きませんか?」とお話をいただいたことがきっかけなのですが、“ヲタク”をテーマにといってもいろんなテイストがあると思うんです。エッセイでもいいと思うし、完全フィクションという手もあった。だけど、打ち合わせを進めていくうち、ヤバいヲタクとそのヲタクが棲息(せいそく)する現場にフォーカスしたものがいいんじゃないかということに行き着いて、そこから内容が固まっていった感じですね。

――どの現場にも“ヤバいヲタク”はいますよね。
今回、あまりにもヤバすぎて審査落ちした人もいましたけど(笑)、笑えるレベルのヤバさの方たちをチョイスしました。
――あくにゃんさんは、いつどんなきっかけでヲタクの道に足を踏み入れたんですか?
この本に「あくにゃんヲタクHistory」として記載してるんですけど、最初にハマったのはビジュアル系バンドでした。といっても、CDは1枚しか買わないし、現場に行くわけでもない。現場に行くようになったのはKis-My-Ft2の北山宏光くんや、K-POPのBOYFRIENDにハマってからですね。

当時、僕も芸能活動をしていたんですけど、2012年に日本武道館で1日4回行われたBOYFRIENDのデビューショーケースを観に行って、「アイドルだ!」って感動したことを覚えています。それからは推しを変え、手を変え、品を変え…と転々としています。
――自分がヲタクだと認識したのはいつ頃ですか?
もともとは二次元のヲタクになったのが先だったんですよ。でも、声優・梶裕貴さんのCDは買うけど会いに行ったことはなくて、いわゆるドルヲタ(アイドルヲタク)になったのは高校生ぐらいだったのかな。当時の推しだったBOYFRIENDのランダムブロマイドで、ドンヒョンが欲しかったのに、別のメンバーが出ちゃったので、「交換してください」と書いた紙を武道館で初めて持ちました。
あとは、超特急やDISH//の特典会や武道館コンサートへ行く時に、全身黄色の担当カラーで参戦し、「ヲタクっぽ~い」って楽しんでいました。
素が見えた時点でアイドル視できないから、推しとの共演はNG!

――あくにゃんさんは会社員としての顔もお持ちですが、社内でどんな業務を担当しているのか教えてください。
広告関係の会社で、クライアントさんのSNSの担当をしたり、サイトの制作をしたりしていたのですが、現在は部署が変わって広報所属となり、社内広報やウェビナーといってウェブ上のセミナーのセッティングや集客などの業務をしています。
――ヲタ活について会社の皆さんと話したりすることも?
就活のタイミングで自分がヲタクであることを公言していたので、特に何か言われることはないですね。ライブの日は早抜けすることが多いので、会社に到着したらデスクにペンライトを並べて「今日はこれからライブです」みたいなアピールをし、「だから、ギリギリで仕事をふるなよ」という空気を出しています(笑)。
――あくにゃんさんは推す側と推される側、双方の経験があるだけに、メリット、デメリットもあるのではないでしょうか?
メリットは推しから好かれる術(すべ)を知っていることです。ヲタ仲間の手紙などを見せてもらうと、舞台についてのダメ出しを書いてる人も多くて、「演出家と話して、1ヵ月間稽古を重ねたうえでやってることなのに、2時間ぐらいしか見ていないキミに何がわかる!」と思いつつ、なかなか鋭い見方をしてるなと感心したり(笑)。

裏側を知っているからこそ、相手の心情を気にしちゃって言えないことはデメリットになるのかな。自分は言われてイヤな思いをしたから、推しに対しても不満は伝えずに、スルーしてしまうという。自分が芸能界を知らなかったら推しにガンガン言って、モンスターペアレントみたいになっていたと思います。
一度だけそれを口に出したことがあって、推しは僕の言ったことに応えてくれたんですよ。素敵だなと思いつつ、こうやってヲタクは調子にのっていくんだなって感じました(笑)。
――ヲタクをしていて、もっともうれしかった出来事について聞かせてください。
本にも書いたんですけど、軸推し(その人に軸を置きつつ、一方で他のアイドルを同時に追いかけること)だったTARGETというグループのスルチャンを4年間ぐらい応援していて、かなりのお金と時間をつぎ込んだんです。
スルチャンは“ポンコツ”と言われることが多く、最も人気のあった子とはファンの数もだいたい3倍ぐらい差があったんですけど、「(ファンが少なくて)悲しいね」みたいなことを言ったら「僕にはあくにゃんがいるから大丈夫」と言ってくれて、それはうれしかったですね。僕のことを「トップチング(友達のトップ)だよ」と言ってくれたことは心に残っています。
――著書で「推しと共演した途端、冷めたこともあった」と明かしていますが…。
そうなんです!別に悪い部分を見たというわけではなく、素が見えた時点でアイドル視できなくなっちゃったんですよ。距離があるから神聖化して見ることができていたのに、距離が縮まっちゃうとカリスマっぽさを感じなくなってしまって。そこからはあまりつながらないようにして、共演NGにしました。ヲタク側からNGにしてる珍しいパターンです(笑)。

――下世話な話ですが、印税の使い道は?
TXT(TOMORROW X TOGETHER)の本国ヨントン(ヨンサントンファの略=映像通話を意味する韓国語)に参加したいです。結構、エグい金額がかかるらしいんですけど、一度でいいからボムギュと話してみたいんですよ。
※CD1枚購入につき、アイドル本人とオンラインで会話できるイベントに1回応募できる。何枚買えば当たるという保証はないが、金額を多くつぎ込んだ分だけ当たる確率は高くなる。
それまで、TXTみたいな大手の事務所に所属しているグループはお金もかかるし、そのわりにバック(見返り)が少ないから推すのを躊躇していたんですけど、コロナ期間中に大手も地下もないと思い始めて。それで、CIXのヨントンに申し込もうと思ったんだけど、直前で怖気づいちゃったんですよ。CIXかTXTかわからないけど、地上(地下アイドルの対義語)にも行ってみようかなと考えています。
アイドルやそのヲタクから信頼されるプロのヲタクになりたい
――ヲタクの極意を教えてください。
「自分を大切に」ということかな。僕は人生を楽しむための推しだと考えているんですが、ヲタクの中には推しが中心になっている人もいて、結構大変そうなんですよね。自分のことも大切にしてあげたほうが結果としてヲタ活も長続きするし、推しが辞めた時や消えた時のイラつきも極力抑えられるんじゃないかなと。
この本も「生きてくださいね」という言葉で〆ているのですが、命がけで応援されてうれしいと思っている推し側はあまりいないと思うので、まずは自分を大切に生きてほしいです。

――これから現場デビューをしようと考えているヲタクの皆さんへアドバイスはありますか?
「ヒエラルキーの頂上へ一気に行くのは無理だよ」と言いたいです。他には、僕が「ヲタクはこんなに楽しいんだよ」と主張しても、現場を知らない人は怖いところにしか目がいかない。でも、実はヲタクってタイマンは弱いし、SNSだとやんや言いますけど、リアルは本当におとなしいんです。「意外と怖くない世界なんだ」ということをわかってほしいですね。
――現在、日本でも地下アイドルや新大久保アイドルなど多数のグループが地上を夢見て活動していますが、あくにゃんさんが注目しているグループを教えてください。
BUZZ-ER.(ブザー)という7人組で、4月にZepp Tokyo公演があります。「♪イーケメンだ、イケメンだー!」という歌詞の曲を歌っているので、チェックしてみてください。僕の元推しに似ているメンバーがいるので、元推しを感じるために薄目で見ていたのですが、最近は普通にハマっています。
――ヲタクとしての最終目標は何ですか?
最終的な夢は、10年後とかにソウルの弘大やカロスキルのカフェで、軸推しと一緒にカフェオレを飲むことです。推しは「子どもを連れていくね」と子どもが生まれている前提で言っていて、僕は結婚できていないと決めつけていてウザかったんですけど(笑)、それが実現することを楽しみに生きています。
――著書タイトルの「推しがいなくなっても…」という言葉が気になりますが、いなくなる可能性はあるんですか?
先日、出演した中居正広さんの番組でジャニーズJr.愛をアピールしたように、ジャニーズを卒業することはないと思います。
ヲタクを辞める理由に「恋人ができたから、結婚するから」というものがありがちですが、それが自分にはあてはまらないと思うんです。だから、必然的に現場にはいるんだろうな。

この「推しがいなくなっても、僕はずっと現場にいる」って、めちゃめちゃ我が強いタイトルで、「推しと一生添い遂げる」の対義語なんですよ。ヲタクとしての自分を優先するという意味だから、ヲタクでいることには変わらないんじゃないかな。
――今後の展望を聞かせてください。
僕のところにアイドルの親御さんから「うちの息子は売れないと思うけど大丈夫か?」みたいな相談のメールが届くこともあったり、YouTubeの僕の動画を見て勉強してくれているアイドル本人もいたりするので、アイドルやその親、事務所から信頼されるヲタクになりたいなって。アイドルとしての教材みたいなものを提供する存在として機能できたらと考えています。
――ファンの皆さんへメッセージをお願いします。
SNSをやっていて感じるのが、自分の推し方こそ正義だと思い込み、イチャモンをつけてくる人が多いのですが、いろんなヲタクがいるということを知ってほしいです。この本ではいろいろな界隈を介しているので、見渡してほしいし、隣の界隈の芝が青いことを知ったり、自分の界隈がなんやかんやで住みやすいなって安心したりしてもらえればうれしいです。
今回、ヲタクとして出せるものは出しきったので、僕のヲタクとしての集大成「推しここ」をご覧いただければ。皆さんも「推しと推しあわせに~♡」。
あくにゃん 公式Twitter/公式Instagram

撮影:河井彩美