【宝塚OG劇場】真彩希帆 相手が“男役”から“男性”に変わり苦労も「リアルさが求められる」
ミュージカル「ドン・ジュアン」【東京公演】10月21日(木)〜11月6日(土)/TBS赤坂ACTシアター
タカラジェンヌとして輝きを放ち、退団後もさまざまな道で活躍する宝塚歌劇団の元スターに、その秘訣やこだわりを語ってもらうインタビュー連載「宝塚OG劇場」。第3回は、雪組トップ娘役として活躍し、2021年4月に退団した真彩希帆が登場。
在団中は「ひかりふる路(みち)〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜」「ファントム」「ONCE UPON A TIME IN AMERICA(ワンス アポン ア タイム イン アメリカ)」などに出演し、圧倒的な歌唱力と確かな表現力で人気を博した。そして今回、退団後初の舞台となるミュージカル「ドン・ジュアン」に出演中だ。
そんな真彩へのインタビューを前後編でお届け。前編では「ドン・ジュアン」マリア役の意気込みや、自身が感じる、宝塚時代との違いについて聞いた。
<【後編】真彩希帆 退団後の自分にショック!?母から「周りを気にしすぎ」と言われて…>
<真彩希帆 フォトギャラリー全14枚はこちら!>
退団後初舞台への不安「私で大丈夫かしら…」

――「ドン・ジュアン」出演の依頼を受けたときは、どんな気持ちでしたか?
すごく興味がありましたし、うれしかったです。それと同時に、前回に引き続き藤ヶ谷(太輔)さんが主演ということで、藤ヶ谷さんはもちろんのこと、ファンの方にとっても、きっと思い入れがある作品だろうと思いました。
ジャニーズ(事務所)さんも宝塚のようにファンクラブがあるなど、支えてくださる方が大勢いらっしゃいますから、もし「相手役がこの子では夢を見られない」と思われてしまったらどうしよう、私で大丈夫かしら…という心配はありました。
もちろん、ジャニーズの方に限らず新しい方とご一緒させていただくときは、そういう不安があるので悩みましたし、相当な決意がないと“マリア”として存在できないと思いました。でも最終的には、やってみたい気持ちが勝りました。
――「ドン・ジュアン」は、2016年に宝塚版(主演・望海風斗)が上演されています。当時作品を観たときは、どんなことを思いましたか?
ドン・ジュアンがマリアに出会い、今まで得たことのない愛を感じていく物語ですが、「母性のようなものを感じさせるマリアって何なんだろう…」みたいな疑問が残りました。不思議な作品だという印象を受けました。
日頃から作品を観るときは、役者として「この役は自分が演じたらどうなるかな」と考えるタイプなので、もし演じられたら面白いだろうな、と思いました。

――マリアは意思をしっかり持った彫刻家ですが、どう演じようと心がけていますか?
マリアにとって彫刻は一番大切で、思いっきり向き合ってきたものです。しかしドン・ジュアンに出会い、彫刻以上にのめり込んでしまいます。人間って、ものすごく惹かれる人や物事に出会ってしまうと、他のことに手がつかなくなる時もありますよね。そんな状態です。
潤色・演出の生田大和先生は「これは一目惚れとは少し違う。お互いがじんわりと理解していくような、丁寧で素朴な愛を表現してほしい」とおっしゃって。いろいろ考えましたが、マリアは仕事に対しても愛に対しても、自分の心の声をよく聞く女性だという印象を強く抱きました。かつ、その心の声にずっと素直でありたいという、子どものように純粋な心を持った人だなと思いました。
ですから方向性をがっちり固めるより、マリアとして毎日何を感じて生きているか、セリフを言ったときに自分の中にどんな感情が生まれるかということに、1つひとつ耳を傾けながら作っています。
――真彩さんといえば美しい歌声に定評がありますが、今回の歌はいかがですか?
私は結構、ヴォカリーズ(歌詞を伴わず、母音のみで歌う方法)というか、ふと気づいたら歌っていた、みたいな歌い方が好きなんですが、今回それは一切求められていなくて(苦笑)。より血の通った、体の細胞を全部使ったような歌い方ができるように試行錯誤しています。
さらに今回に関しては、エネルギーを外に開放しつつ、内に秘めているものが伝わるように歌で表現することにも挑戦しています。歌でできることはまだまだある、突き詰める余地があるんだなと、多くのことを発見しています。
――お稽古で苦労したことはありますか?
やっぱり宝塚と見せ方が違うので、そこは苦労しています。例えば相手役の方と一緒に踊る際、宝塚では美しく見せつつ、女性同士ですから、なるべく相手の方の負担にならないようにということを意識していました。
ところが今回は、よりリアルさが求められます。宝塚のときより相手に身を委ねないといけないのですが、「もっと寄りかかって」とか「もっと力抜いて」と言われることもあって。「見た目は美しいのだろうか…」と、まだ疑問に思ってしまう自分もいて、なかなか難しいですね。
――お芝居の見せ方以外にも、相手役の方が女性(男役)から男性に変わったことで、何か違いはありますか?
もともと、相手を“男性か女性か”で見ないですし、人見知りもそんなにしないタイプなので、宝塚時代と感覚はほとんど変わらないです。宝塚のときは、相手役の望海風斗さんと毎日「さらに良い舞台を作るためにどうすれば良いか」「今日の公演よりもっと良くできる方法があるはず」と、真剣に話し合っていました。
今回の舞台でも、その姿勢は変わりません。藤ヶ谷さんは、生田先生がおっしゃることや、役・作品についてじっくり考えてご自身の中に落とし込み、丁寧に表現される方だと思います。ドン・ジュアンとマリアの近づき方や、手の出し方ひとつに対しても「どうしたらいいだろう」と話し合っています。
藤ヶ谷さんはそうやって作品に真剣に向き合っていらっしゃる反面、「舞台経験が多いから任せるよ」と冗談を飛ばすこともあって(笑)。気さくで、人の心をほぐすのが上手な方だなと思います。

お稽古にもう舞台セットが!宝塚との違いに驚き
――お稽古場の雰囲気はいかがでしょう。
皆さん、本当に仲良くさせていただいています。初めは「男性と共演するのってどうなんだろう?」とか「カンパニーの皆さんとは、宝塚みたいに毎日ずっと一緒にいるわけではないから、うまく関係を築けるかな?」と思っていましたが、そんな不安はすぐに消えました。もう「全然心配することなかった、めっちゃ楽しい!」という感じです(笑)。
最初に名前の呼び方を聞かれて、「真彩か、きいちゃんか。本名はなつこです」と答えたら、藤ヶ谷さんが「じゃあ、なっちゃんだ!」と言ってくれて。そこからキャストの皆さんも、そのあだ名で呼んでくれて(笑)。もちろん芸名もですが、本名で…というのが、すごくうれしかったです。
それから皆さんでワイワイしたり、一緒に筋トレをしたり、疲れたときには美味しいお菓子を分けてくださったり…(笑)。常に笑っています。今回、宝塚の先輩OGである春野寿美礼さんとも共演させていただくのですが、「大先輩!」というより、女優・オサさん(春野さんの愛称)という意識で、すごくフランクにお付き合いさせていただいています。
――すぐに人と打ち解けられるのは、やはり宝塚時代に頻繁に組替えを経験されたことも影響していますか?
やはりそれはあると思います。もともと人に話しかけるのが億劫ではないというか、むしろいろいろ質問するのが好きなんですよね。知らないことをどんどん知っていくことが、すごく楽しくて。組替えで本当にたくさんの方に出会い、深く関わらせていただく中で、その気持ちをより実感しました。
また今回は、宝塚と違って皆さんと一緒に過ごせる期間が短いので、自分が心を閉ざしてしまったら、相手の方も接しにくいだろうと思い、常にオープンな自分でいようと心がけています。
人への興味は本当に尽きないので、これからいろいろなジャンルの方にお会いして、お話を聞いてみたいです。

――退団後、初の舞台出演ですが、ほかに何か発見したことはありますか?
お稽古場にもう舞台セットがあって、びっくりしました!小道具や大道具を出すのも、音響も、専門のスタッフさんがお稽古の段階からいらっしゃることにも驚きました。宝塚だったら、下級生が模擬の小道具を作ったり本番で手渡ししたりするので…ここでは何もしなくていいのか、と(笑)。
宝塚のときは、お稽古中は下級生が作ってくれた模擬の小道具を持って、本番用はどんなだろうと想像を巡らせながら歌ったり踊ったりします。そして、いざ本番用の小道具を手にすると、さらに役に対して想像を膨らませることができました。
でも宝塚のやり方と現在のやり方は、どちらが良い悪いではないと思います。今回の本番ではどんな気持ちになるんだろうと、お稽古中からすごくワクワクしていました。
――お話を聞いていると「楽しみ」という気持ちがすごく伝わってきます。
すごく楽しいです。やっぱり役者として、舞台に立ったときに何を感じるかが楽しみで毎日お稽古をしているので。これまでは「お稽古は厳しいもの」という意識があったんですけれど、今はすごく自然体で、頑張りすぎに楽しめている自分が「新しいな」と思いますね。
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最新情報は、舞台「ドン・ジュアン」公式サイトまで。
撮影:河井彩美