
【宝塚OG劇場】真彩希帆 退団後の自分にショック!?母からは「周りを気にしすぎ」
タカラジェンヌとして輝きを放ち、退団後もさまざまな道で活躍する宝塚歌劇団の元スターに、その秘訣やこだわりを語ってもらうインタビュー連載「宝塚OG劇場」。第3回は、雪組トップ娘役として活躍し、2021年4月に退団した真彩希帆が登場。
在団中は「ひかりふる路(みち)〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜」「ファントム」「ONCE UPON A TIME IN AMERICA(ワンス アポン ア タイム イン アメリカ)」などに出演し、圧倒的な歌唱力と確かな表現力で人気を博した。そして今回、退団後初の舞台となるミュージカル「ドン・ジュアン」に出演中だ。
そんな真彩へのインタビューを前後編でお届け。後編では舞台に立つ上で大切にしていることや、退団後に感じた変化を聞いた。また、タカラジェンヌOGといえば、オシャレで個性的なファッションも魅力のひとつ。そこで本連載では、それぞれの“こだわりの一着”も紹介してもらう。
<【前編】真彩希帆 相手が“男役”から“男性”に変わり苦労も「リアルさが求められる>
<真彩希帆 フォトギャラリー全14枚はこちら!>
“トップコンビ”から1人になって感じたこと
――退団してから、このようにインタビューを受ける機会は増えていますか?
そうですね、ありがたいことに増えています。在団中は、相手役の望海風斗さんと“トップコンビ”として2人で取材を受けることが多かったので、退団した今は、自分の意見や伝えたいことを、よりはっきりさせていかないと、と感じています。

――宝塚時代から今も一貫して、舞台に立つ上で大切にしていることはありますか?
やはり「ときめき」とか、舞台に対する思いでしょうか。うれしいときだけでなく、怒っているときや悲しいときなど、どんな状況でも舞台には立たなければなりません。もちろんお芝居は虚構ですけれど、自分の心を適当にごまかして、気持ちに蓋をして舞台に立ってしまうのは、よろしくないと思うんですよね。
だから、いつどんな風にも動けるよう、舞台に対して真摯に向き合う。まっすぐにストンとした気持ちでいることが大事だと思っています。ひねくれた思いは持たずに、自然な状態で舞台上に存在していたいですね。
――まっすぐな気持ちで舞台に立つための、ルーティンはありますか?
ルーティンというか、舞台に立つ前に必ず「今日も見守っていてください」と、手を合わせることを大切にしています。私、“舞台の神様”って本当にいると思っていて。お稽古ではすごく突き詰めるんですけれど、本番はもう神様にお任せするというか。「これだけやってきたんで、よろしくお願いします!」みたいな感じで、心を大きく構えることが大切だなと思っています。
宝塚ではよく、お稲荷さん(※)に手を合わせていました。でも、それとはまた違い、自分の中にパワーをもらうために手を合わせている感じです。昔からの習慣なので、わりと自然な行いになっていますね。
(※)舞台の成功を祈るため、宝塚大劇場の楽屋に祀られている。
手を合わせる以外には、そのときどきで何かしらありますね。例えば、ある公演では「一度舞台上を見てから本番に臨む」とか、また別の公演では「この香水を嗅いでから出る」とか。
あとは本番の日に限らず常に、ということであれば「みんなに元気よく挨拶する」ですね。元気に挨拶できないときって、心が病んでいるときだと思うので、元気よく挨拶することで「今日も健康に過ごせているな」と、確認する意味も込めています。
何でもない生き方をしたいけれど、まだ考え方が歪(いびつ)
――最近ハマっていることはありますか?
いろいろあります!私、ドライブがすごく好きで、自分の車を持っているんです。でもお稽古が忙しくなってくると、なかなかドライブに行けないので、早くどこかへ行きたいですね。
――ドライブではどのあたりに行くのでしょうか。
退団して東京へ来てからは、それこそお台場周辺に行ったり、横浜の方へも行ってみたり。本当はあまりよろしくないのかもしれないですけれど、お仕事でちょっと遠くへ行くときに「車で行ってもいいですか?」と聞いてみたり(笑)。

――退団してから私生活で変わったことはありますか?
季節を感じられることに、うれしい!と思います。在団中はどうしても朝から夜までお稽古で、外に出るのは一瞬だけ…みたいな生活で。休日のたびに「えっもう秋?」とか「もうこんなに寒いの?衣替えしてない!」と思うことがしょっちゅうでした。
でも今は「今日は、何月何日の何曜日で、気温は何度ぐらい」と、月日の流れを確認できるので「すごく人間らしい生活だ!」と思います(笑)。お天気チェックをして「洋服は何を着ようかな」と考えるのが、新鮮で楽しいです。
――ちなみに、在団中から「挑戦したい」と公言していたカリグラフィは始めましたか?
ちょっと手を出したんですけれど…まだ完璧には。万年筆と、カリグラフィの先生は見つけたんですよ!でも、先生に「行きたいです」と伝えたものの、残念ながら忙しくてまだ行けていないんです。
やりたいことって、やっぱり時間がないとできないなと感じています。私はやりたいことが本当にたくさんある人間なので、全部やるにはきっと時間が足りないから、「長生きしないと!」と思っています(笑)。
――今後チャレンジしてみたいことを教えてください。
本当にいろいろあります。それこそ、Instagramに載せているバク転や殺陣もやりたいことの1つです。でも、一番やるべきだと思っているのは、「自分の心を開放すること」。結局、自分の心が健康でないと、やりたいことも見つからないし、仕事だって行き詰まってしまうと思うんです。
在団中は、自分は何をしたいのか、どう生きたいのかということを、限られた時間の中で必死に考えてきました。それが、退団してからは家でゆっくり考えたり、実際に行動に移したりできるようになりました。落ち着いた時間の中で考え事をしたり、仕事をしたりという、何でもない生き方をしたいんです。でも、やっぱりどこかまだ考え方が歪(いびつ)で。
――考え方が歪というと?
母によく「周りを気にしすぎ。そんな丁寧に生きなくていいんだよ」と言われるんです。親元を離れて約12年の宝塚生活を経て、今は東京に戻り家族と過ごす時間も増えたわけですが、家族同士なのに、とにかく人様に迷惑をかけないように気を遣ってしまう。例えば外食したときは、後片付けまで「しっかりやらねば」という気持ちになるんです。
実はこの前、家族みんなでご飯を食べに行ったときも、そんな出来事があって…。
妹と姪っ子の食べたいメニューがかぶったんですよ。私が「2人でシェアしたら?」と提案したら、妹から「全部ひとりで食べたい」と返されて、私は「なんて心が狭い子なのかしら!」と思ったんです。でもよく考えたら、私はシェアで満足できるけれど、妹は1人前をちゃんと食べたいタイプで。そう分かっていても、「一緒に食べようか」って聞いたりするものじゃないの?と、久しぶりに妹とちょっぴりケンカをしました。

ほかにも、人と接しているときの父の態度を見て、「ああいう言い方したら良くないと思うんだよね。もう少し接しやすいように挨拶した方が良かった」みたいに言っちゃって…(笑)面倒くさい娘ですよね。側から見れば、父の態度はすごく丁寧なほうだと思うのですが、それでも、より「人を嫌な気持ちにさせないように、どうしたらいいか」をすごく考えてしまって。
在団中は、実家に帰ってもわずかな時間しか一緒にいられないから、気づかなかったんです。退団後に、気づいたときは「私、気にしすぎ!?」って、ショックでした(苦笑)。それでも今、家族でゆっくり過ごせる時間があるのはうれしいことです。
――では、読者の皆さまにメッセージをお願いします!
宝塚の世界を辞めて、次にどこへ踏み出そうと考えたら、やっぱり私は舞台に立つことで人様に生かされるというか、皆さまに恩返しができるのでは、と思いました。今は新型コロナの影響でなかなか舞台に足を運べない方もいらっしゃると思いますが、きっと改善されていくのではと感じています。皆さまとはSNSでつながることもできますし、街中で見かけたら話しかけていただいても全然大丈夫ですし(笑)!
私は、毎日を本当に楽しく過ごしているので、そのエネルギーや生きる喜びみたいなものが皆さまに伝わって、元気になっていただけたらうれしいなと思います。
<こだわりの一着>退団会見で着たオーダーメイドのワンピース

退団すると決まったとき、会見で何を着るかすごく考えました。やはり、とても大切な場ですし取材も受けるので、その姿は後々さまざまなメディアに載る機会が多いと思い。そこで「自分を表現できるお洋服ってなんだろう」と考えて、このワンピースにたどり着きました。
実はこれ、市販ではなくオーダーメイドなんです。お稽古着などを何枚か作ってくださっていた方に、「自分の体に合ったお洋服を作りたい」とお伝えして、生地選びから一緒に行いました。
私は、皇族の方が着ていらっしゃる“ロイヤルファッション”がすごく好きなので、上皇后美智子様が着ていらっしゃったワンピースの中で、憧れの1着を参考にさせていただきました。
ロイヤルファッションは色味がきれいで、シンプルでしっかりしたデザインでありながら、かわいらしさと美しさがあります。「天皇陛下 皇后美智子さまご結婚50年のあゆみ」(毎日新聞社)という写真集も持っているのですが、どのお洋服も素敵なんです。この先年齢を重ねても、こういった上品なお洋服が似合う女性でありたいというのが、私の理想です。
最新情報は、舞台「ドン・ジュアン」公式サイトまで。
撮影:河井彩美