「夫婦ゲンカ」も「会社の不調」も同じ原因から起こる。にしゃんたが信じる『絶対的な真理』
スリランカ出身のタレント・にしゃんた。
25年に渡るスリランカ内戦の中で友人を亡くした実体験などを通じ、「多文化共生」の大事さを全国各地で訴える活動を続けている。
今回は「日本で働く外国人が気を付けるべきこと」や「日本社会について感じること」などについて聞いた。

外国人が日本で働くときに気をつけることとは?
――外国人が日本企業で働く上で気をつけるべきこととはなんでしょうか?
まずは、日本という国を好きであってほしいですね。ただ大多数の人が、日本が好きだから来ると思うので、その心配はしていません。
来日当初の私もそうでしたが、来日する外国人が発展途上国出身だと、日本に尊敬の念をもって見ています。なので、日本に何か教えてやろうと思ってくる人はいないと思いますが、謙虚な心や、日本をリスペクトすることは大事だと思います。
自国にはない日本の文化に触れたり、習慣を身につけたりすることで、新しい自分に出会えます。それを楽しんでほしいです。私も17歳で初めて日本に来た時と比べると、全く別人格です。
僕の大学の恩師に「大学教員として就職します」と報告したら、「教授会では2年間しゃべるな」と言われました。発信ではなく、吸収に徹し、その職場の文化を把握しないという意味でした。
最初は、我慢すべきこと、理不尽と思うことが多いかもしれません。時間が経つとそれはそれで理にかなっていることもあることに気づきます。みんなにも耐えるところは耐えて楽しんでほしいですね。
――日本の閉鎖的な部分と素晴らしい部分を教えてください。
私は今では、博士号をとって大学教授をしていますが、実はもともとは、教授などになるつもりは全くなかったんです。本当は大学を卒業した後、働きたかったのですが、国籍条項に阻まれて希望する仕事につけなかったのです。
日本を代表する国際機関から地域の国際交流関連機関まで当時は日本の国籍がないと就職できなかったのです。日本の国際化の矛盾のようなものを痛烈に実感した瞬間でした。
しかも私は、800人以上いた大学の同級生の中で、学部総代で卒業しているのです。その頃の私は、日本のことも徐々に理解できてきて、日本が楽しくなって来ていましたのですが、大好きな日本に残るには、大学院進学しか道がなかったのです。

言ってみればそれは、日本の社会が閉鎖的であるからこそとった、消去法の選択だったのです。ですので、仕方がなく経済学博士号を持って、仕方がなく大学教授になっていくという皮肉な存在です。
ですが同時に、発展途上国出身の外国人が、経済大国の経済学博士号をもって大学教授になれる素晴らしい国でもあるのです。
僕ら日本にいる外国出身者の使命の一つは、「この国は夢がある」と内外に示すことなのです。これは、日本への恩返しでもあります。
母国から片道切符と7万円しか持たずに来日しても、この国の大学教授や国会議員になれるチャンスがあるのだと証明したいです。
僕は来日して32年経つのですが、実は1日も飽きたことがないです。毎日が、新鮮で楽しいです。きっと母国スリランカに残っていたらこんなにおもしろくなかったのではないかと思います。それだけ刺激的で素敵な国なんです日本は。
「違いを楽しみ、力に変える」
――にしゃんたさんがよく使う「違いを楽しみ、力に変える」という言葉について教えてください。
堅苦しい言葉で言うと、日本でも最近流行りの「ダイバーシティ&インクルージョン」という意味にもなります。
私は周りに「違い」と聞いて、何を連想するかと質問するとありますが、「怖い」「嫌い」など、悪いことを思い浮かべる人が多いです。
しかし、私の周りには違いしかないです。周りにいる人は顔だってみんな違っていて、我々をとりまく環境も一瞬一瞬変わっていっています。
つまり違いしかない中で生き、生かされています。違いしかないのだから、その違いや変化を受け入れて前進する必要があるのです。
世の中には、戦争、テロ、会社の調子が悪い、夫婦の不仲などなど、いろんなレベルの問題がありますが、世の中の全ての問題の原因が、違いや変化を受け入れようとせず、つまり違いと正しく関わろうとせず、それらの違いを排斥、排除、無視、シカト、同化、住み分けしていることに端を発しています。
あらゆる空間の持続可能性、発展可能性、平和を望むなら、違う者同士がただ共に生きるだけの「共生」ではなく、違いを楽しむ「共楽」、共に学ぶ「共学」、共に育つ「共育」、共に活き活かされる「共活」が大事です。
そして、今の世の中ではまだ片方しか笑えていない場合も多いと感じます。共に笑うこと、つまり「共笑」も大事です。絶対的な真理なのです。

【にしゃんた 羽衣国際大学 教授(経済学博士)/ タレント】
セイロン生まれ。高校生の時に来日、日本国籍を取得。スリランカ出身、教授、タレント、随筆家、落語家、空手家、講演家、子育て父、僧侶などの顔を持つ。大学で教鞭をとる傍らメディア出演や講演活動を行う。「違いを楽しみ、力に変える」(多様性と包摂)をテーマに全国各地で講演していることなどから「Mr.ダイバーシティ」と言われることも。ボランティアで献血推進活動に積極的。
【聞き手:株式会社クロボ代表取締役社長CEO北氏智弘】
2019年3月に株式会社クロボを設立し、訪日外国人や海外をターゲットとしている企業にグローバルで活躍ができる人材紹介を行っている。