小林聡美主演 映画「ツユクサ」で知る“日常の尊さ”と“大人の恋の妙味”
確率は“1億分の1” 隕石にぶつかった出来事から奇跡が始まる
主人公の五十嵐芙美を演じるのは、「東京オアシス」(2011年)以来、11年ぶりに主演を務めた小林聡美さん。芙美は、小さな港町で、ボディタオルを作る会社で働きながら1人で暮らす女性。ワケあって少し前から断酒会に通っています。
物語は、そんな平穏に暮らす芙美の車に隕石がぶつかるという、信じがたい出来事から始まります。隕石に遭遇する確率は、“1億分の1”…まさに奇跡です。
映画「かもめ食堂」(2006年)や「めがね」(2007年)で演じた、丁寧な日常を送る女性と重なりながら、小林さんの清潔感と茶目っ気が相まって、芙美はよりキュートで人間味を感じるキャラクター。
職場の同僚を演じるのは、平岩紙さんと江口のりこさん。芙美と直子(平岩)と妙子(江口)の何気ないおしゃべりや、上司のうわさ話、買い物を巡る言い合いなど、思わずクスッと笑ってしまうような会話がなんとも心地よく交わされます。
それは、お互い心に傷を持つ彼女たちだからこそ、“言いたくないことには触れない”という暗黙の了解があるからなのかもしれません。

また、芙美にとって、直子のひとり息子で小学生の航平(斎藤汰鷹)も、大切な存在。うんと年は離れているけれど、一緒に遊びに行ったり、髪を切ってあげたり、義父・貞夫(渋川清彦)とうまくコミュニケーションが取れないという航平の相談に乗ったりと、何でも話せる親友です。
人間を描くことに定評がある平山監督は、本作でいくつもの心に染みるシーンを映し出していきます。
その1つが、宇宙が大好きな航平に隕石を拾いに駆り出された芙美が、家まで迎えに行くシーン。窓の外から芙美が、「航平くん、遊びましょー!」と呼び出します。この懐かしい誘い文句は、芙美と航平の無垢な友情を表現しながら、観客が郷愁を感じるという効果も発揮します。

芙美が夕食にハンバーグを作り、食べるシーンも印象的です。できあがったハンバーグを1口食べ、「腕、落ちました」と言う場面は、芙美の悲しみを知った時、初めて理解できるという仕掛けになっているのです。