松本白鸚「第47回菊田一夫演劇賞」授賞式で「家内にお礼を。ありがとう」
<菊田一夫演劇賞>
■佐藤B作
(「サンシャイン・ボーイズ」のアル・ルイス役の演技に対して)
佐藤B作と申します。ちょっと聞くとふざけた芸名のようですが、これは自由劇場という劇団の研究生の時にあだ名をつけていただきまして今に至ります。
私は大学で東京に出てきました。絵に描いたように真面目な学生でしたが、五月病なのかだんだんと学校に行かなくなり歌舞伎町のジャズ喫茶に朝までいるようになってしまいまして、この先どうなってしまうのかと思っていたのですが、ある日『若者たち』というドラマを見てとても感動しまして「学校も行かず、ぶらぶらしていてはダメだ」と思いなぜか演劇をやろうと思い、早稲田の劇団に入りすっかり人生が変わってしまいました。
その時の演出に「佐藤の演技はナイーブでよかった」と褒めてもらい、それからどんどん芝居にはまっていきまして、その後自由劇場に入り、東京ヴォードヴィルショーを作って、いろいろな劇作家と出会いました。
そんな中今回の「サンシャイン・ボーイズ」で、同世代で尊敬している加藤健一さんからお声かけをいただきまして、普段あまり海外の演劇をやってないので初めてのような役でこのような賞をいただき、いろんな方のお力添えがあって生かされているなと感謝の気持ちでいっぱいの佐藤B作でした。

■土居裕子 ※授賞式は、新型コロナウイルス罹患のため欠席
(「リトルプリンス」の王子役の演技に対して)
この度は、このような名誉ある素晴らしい賞を頂戴し誠にありがとうございます。
30年前の初演から何度も演じた役柄とはいえ、まさかまたこの年齢で演じさせていただけるとは、ましてや、小さな劇団で生まれ上演してきたこのオリジナルミュージカルが、東宝の製作で、より多くの方に観ていただけることになるとは夢にも思っていませんでした。
そのご決断は大変勇気のいるものだったのではないでしょうか。本当に本当にありがとうございました。
いつ中断してもおかしくないコロナ禍で、名古屋の大千秋楽まで、スタッフ、キャスト全員が、健康なまま駆け抜けることができたのは、カンパニーの皆様の意識の高さと、この作品へたくさんの愛情を注いで下さったことに他なりません。
それなのに、それなのに、こんな飛び上がるほどうれしい賞をいただいて、この日をずーっと心待ちにしていたのに、この大事な時に感染してしまうとはっ。ほんとに情けないかぎりです。
星の王子さまにも、「今回ばかりは笑えない」と、真上に光るあの星から叱られてしまいました。本当に申し訳ありません。
当然のことながら、私一人でいただけた賞ではなく、「土居さんが王子を演るなら」などと、とんでもない発言で私をこの場に導いてくださった井上芳雄さんをはじめ、プロデューサーの小嶋麻倫子さん、演出の小林香さん、全てのキャスト、スタッフの皆様、そしてパンデミックの中、ご来場下さいましたたくさんのお客様の熱意と応援のおかげと心から感謝申し上げます。本当にありがとうございました。
■木下晴香
(「モーツァルト! 」のコンスタンツェ役、「王家の紋章 」のキャロル役、
「彼女を笑う人がいても」の岩井梨沙/山中誠子役の演技に対して)
この度は栄誉ある賞をいただき大変ありがたく思っております。まさかこのような賞がいただける日が来るとは夢にも思っていなかったのでお知らせを受けたときは本当にびっくりしました。
「モーツァルト!」「王家の紋章」「彼女を笑う人がいても」の三作ともに「どうかお客様にお届けできますように」と祈るような気持ちで過ごしていた日々でもあったので、今回ちゃんとお客様と作品を分かち合えたんだという証をこんなに素敵な形でいただけてうれしいで
すし、素晴らしい出会いと学びに満ちた日々を過ごさせていただいたと改めて幸せを感じております。
「挨拶、素直さ、謙虚さ、感謝」恩師からいただいたこの言葉を胸に九州から上京して5年半が経ちます。まだまだ至らないことばかりで、目の前のことに真っ直ぐに取り組むことしかできない私が今日この場所に立つことができたのは、たくさんの方からいただいた愛と言葉が導いてくれたおかげです。
これまでお力添えをいただいた皆様、ご一緒させていただいた皆様、応援してくださる皆様には感謝してもし切れません。幼い私に夢を与えてくれたのも、心に栄養を与えてくれたのも演劇でした。
作品を通して誰かの力になれるよう、出会いを大切に、そしてこの賞を糧に日々精進してまいります。

■森新太郎
(「ジュリアス・シーザー」、「冬のライオン」の演出の成果に対して)
演出の森新太郎です。この度は栄えある賞をいただき誠にありがとうございます。
演劇集団円の大先輩である立石涼子さんに言われた言葉で胸に深く残っているものがあります。「森、奇をてらう必要はないのよ。普通にやりなさい。みんな一人ひとり普通は違うのだから。あなたの普通はそれだけであなたの個性なのだから」。それ以来、私は普通にやることを心掛け、素直に自分が信じられることだけを追求してきました。
受賞の対象となった二作品においてもそれは変わりませんでした。「ジュリアス・シーザー」は、本来は男性ばかりが登場する政治闘争劇ですが私はそれを女性のみで上演しました。
しかし、オールフィメールというその看板を意識することなく吉田羊さんをはじめとする俳優陣は力強く人間・ブルータスをあるいは人間・ジュリアス・シーザーを演じてくださいました。
「冬のライオン」は、中世ロイヤルファミリーの崩壊を描いたコメディで俳優たちのアンサンブルが素晴らしかった。
私は織田作之助の「夫婦善哉」が大好きなのですが、佐々木蔵之介さんと高畑淳子さんのロイヤル夫婦善哉に私自身が一番心を躍らせていたかもしれません。
両作品とも忘れえぬ演劇体験でした。この二作品だけでなく私の演劇作品に携わってくださったすべての皆様にこの場をお借りして心より御礼申し上げたいと思います。
