【眼福♡男子】Vol.12 味方良介「自分にできる以上のことをやらないと、木村拓哉という人間に勝てないと思った」
舞台「飛龍伝2020」【東京公演】1月30日(水)~2月12日(水)/新国立劇場 中劇場【大阪公演】2月22日(土)~24日(月)/COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
2017年、史上最年少となる24歳でつかこうへい作「熱海殺人事件」の木村伝兵衛役に抜擢され、演劇界の大きな話題となった味方良介(みかた・りょうすけ=27)。そんな味方が今年1月に放送された、木村拓哉主演・新春スペシャルドラマ『教場』でみせた熱演に目を奪われた人も多いだろう。
映像作品初出演ながら、視聴者に鮮烈な印象を残した味方は現在、「つかこうへい演劇祭―没後10年に祈る―『飛龍伝2020』」に出演中。『教場』の思い出と、“つか俳優”としての今後を尋ねた。
「『教場』でいただいたチャンスをモノにし、役者としてのステージを上げたい」

――年明けに二夜連続で放送された『教場』ですが、反響はいかがでしたか?
撮影中は何もわからず、がむしゃらに挑んでいたので、完成した作品を見てから監督をはじめ、皆さんが愛情をもってこの作品を作り上げたことがヒシヒシと伝わってきました。そして、多くの方に“味方良介”という存在を知っていただけたのがとてもありがたいことだなと。舞台の世界にもいろいろな役者がいて、舞台っていろんな可能性を秘めてるんだということを、見てくださった方々に届けられたのかなと思います。
――味方さん扮する都築と木村さん演じる風間が対峙した後半のシーンは、まるで舞台を見ているかのような緊迫感でした。
あの場面は、監督たちが「役者に負担がないように」とたくさん話し合い、撮ってくださったシーンでした。自分にできる以上のことをやらないと木村拓哉という人間に勝てないと思っていたので、自分が培ってきた以上のものをぶつけて、彼の心をほんの一揺れでも揺さぶることができたら…と挑んだシーンだったんですが、それが見てる方の胸に刺さったのなら嬉しいことです。

――映像作品に対し、「食わず嫌い」のような感覚をもっていたと以前、お話されていましたが、変化はありましたか?
なんで、今まで(映像作品に)触れてこなかったんだろう(苦笑)。でも、それは多分『教場』だからよかったのかなと。作品が『教場』でなければ、違う感覚に陥っていたかもしれません。自分にない様々なことに気づかせてくれたのが『教場』だったので、とても貴重な経験でした。
――同世代の共演陣から受けた刺激も多かったのではないでしょうか。
三浦翔平さんや工藤阿須加さんとご一緒して、映像の現場にいるとこんなにも臨機応変に動けるんだと、舞台にはない刺激をたくさん受けました。これから自分が作品に入る時に、あの時のこの感覚を使ってみようと…引き出しの数が増えたと思います。

――共演の皆さんと、味方さん手作りのおにぎりを食べたというお話を伺いました。
僕らの仕事は時間が不規則だし、稽古中は休憩時間がない場合もあるので、サッと食べられるようにおにぎりやサンドイッチを普段から持参するようにしているんです。今回もおにぎりを食べていたら、後半で一緒に過ごすことの多かった4人(三浦、工藤、川口春奈、大島優子)が「何、それ?」と興味をしめし、1人分をつくるのも5人分をつくるのも手間は変わらないので、皆の分をつくって持って行きました。
――『教場』は味方さんにとってどんな作品になりましたか?
自分の視野を広げてくれた作品です。舞台はあらかじめ上演時間が決まっているけれど、映像のスタッフさんは「いつ寝てるんだろう?」と心配になるぐらいに朝から晩まで働いていて、こんなに過酷な生活をしながらも、皆がより良い作品をつくろうとしている。それを気づかせてくれたことが僕にとって大きな刺激になりました。
「飛龍伝2020」は、この先もつかさんが皆の心に生きていけるような作品にしたい

日本演劇界に大きな功績を遺した劇作家・つかこうへいがこの世を去って10年。味方は現在「飛龍伝2020」で、全共闘作戦参謀の桂木純一郎に扮している。つか作品を愛するひとりとして、そして、つかイズムを継承する役者として、並々ならぬ決意で舞台に立っている。
――現在、「飛龍伝2020」公演の真っ最中ですね。
「熱海殺人事件」「幕末純情伝」「銀幕の果てに」と3作品に関わらせていただきながら、つかさんご本人に会ったことがないというのが僕の悔しさとバネなんです。「『飛龍伝』をやりたい」という願いが叶い、幸せな限りです。僕らが作る『飛龍伝』が今の世代にインプットされ、この先もつかこうへいという人間が生きていけるような作品にしたいです。
――味方さんのことを、つかさんの演出を受けた方だと勘違いしていました。
そう言っていただけることはありがたいことですけど、やっぱり悔しいです。
僕は日本語が好きです。大好きな日本語をあそこまで乱暴に、かつ美しく描けるつかこうへいという人間は凄いなと。つかこうへいさんが紡ぐ言葉を口立て(注釈:作者自身が稽古場で生み出したセリフを口頭で役者に伝え、復唱していく演出法)で聞きたかったという思いがあります。

――つか作品を担う役者としての思いを聞かせてください。
「この言葉を言っちゃいけないんだよ」ではなく、言った先に何があるのか、言ったらどうなるのかということを僕らが伝えていけたらいいなと。言葉の意味をちゃんと届けられる役者になりたいです。
僕の“眼福”は仕事の後の生ビールと美味しいラーメン
大好きな舞台への思いを熱い言葉で伝えてくれた味方は、つか作品で共演経験の多いNON STYLEの石田明と、年齢を超えた“ダチ”でもあると屈託のない表情で明かしてくれた。常にストイックに作品へ向き合っている印象の味方だが、仕事を離れたオフの時間はどんなふうに過ごしているのだろう。
――味方さんにとっての“眼福”な存在は?
僕はお酒が好きなんです。仕事終わりにあのキレイな生ビールを見ると「やっててよかった~」って思いますね。

――「この1杯のために生きてる!」って!?
それもあります(笑)。でもね、本当は最初の1杯だけでいいんですよ。その後のお酒は惰性でしかない。最初の1杯が美味しすぎて、その味を求めて2杯目、3杯目といっちゃうんですよね。そして、美味しいラーメンとの出合いも眼福です。現在のお気に入りは神奈川県の尻手にある煮干し系の「いのうえ」と、浅草の「みつヰ」。みつヰは、店のお父さんが1杯をものすごく丁寧に作るのですが、それがまた素敵なんです。

――本当に好きなんですね(笑)。休日はどんなふうに過ごしているんですか?
料理をつくるか、舞台を観にいくか、神社へ行くか…ですね。神社へ入った瞬間の独特の空気が好きで、様々な場所へ足を運んでいます。行った帰りにその土地の美味しいものを食べて帰ってくるのが幸せな時間ですね。

――最後に2020年の展望を聞かせてください。
「飛躍の年」ですね。チャンスはしっかりといただいたので、そこから先は僕の作業。約10年間、お世話になった事務所を昨年末に辞めてフリーになったので、一度リセットしてまたゼロから味方良介という人間を構築し、飛躍したいです。

撮影:河井彩美