『アライブ がん専門医のカルテ』美術デザイナーが語る 濃密な人間ドラマを支えるリアルなセットへのこだわりとは
毎週木曜22時 木曜劇場『アライブ がん専門医のカルテ』
現在放送中のフジテレビ木曜劇場『アライブ がん専門医のカルテ』は、腫瘍内科「メディカル・オンコロジー」というがんに特化した診療科を舞台に送る最新のメディカル・ヒューマンドラマだ。
がん患者と家族の物語は毎回胸に迫るものがあり、そして主演の松下奈緒演じる腫瘍内科医・恩田心と、彼女のよき理解者として支えてきた木村佳乃演じる有能な消化器外科医・梶山薫の壊れかけた関係性も終盤へ向けて新展開に突入する。
見逃せない濃密な人間ドラマを展開しているこの作品を、よりリアルに表現しているセットデザインを手がけた柳川和央にセット制作のこだわりについて聞いた。
ストーリー展開を邪魔しない空間づくり
柳川:制作にあたり、監督からは「近代的でスタイリッシュなイメージで」と伝えられました。ですが、ヒューマンドラマという内容と、病院の外観がよくある見慣れた印象の建物だったこともあり、ストーリー展開を邪魔しないよう、あまり際立った部分のない空間にすることになりました。

「腫瘍内科」の特徴でもある「化学療法室」に奥行きと臨場感を

柳川:「腫瘍内科」という特殊な診療科が舞台なので、腫瘍内科の特徴でもある「化学療法室」という治療部屋を設置しています。いくつかの病院をロケハンした際に、実際の「化学療法室」の内部を見せていただき、医療関係者の話を聞く機会がありましたので、それもデザインをする上で参考にしています。
劇中では医療ドラマでおなじみの手術シーンもありますが、抗がん剤治療を施す「化学療法室」での患者との対話をじっくり描いています。ロケハンでの調査をもとにリアルに再現しつつ、ドラマの象徴となる空間として、実際の「化学療法室」よりも治療用の椅子の数を増やして、奥行きや臨場感が出るようにデザインしています。

椅子を増やしたことでスタジオにセットが収まらなくなり、診療室を何度か描きなおす必要がありましたが、最終的には納得のいくデザインになりました。
また、手術シーン用のオペ室のセットは撮影機材が入り込めるようにスペースを確保して配置しています。

余談ですが、セットにある医療機器や用具はすべて本物またはモックアップ(実物大模型)なので、役者は医療指導スタッフによる猛レッスンを受けてリアルな使いこなしを身に付けます。

無機質感が支配する病院のセット裏は意外にも…

柳川:エレベーターの扉の開閉はスタッフがロープで操作しています。階数表示のライトも電飾スタッフが役者の芝居に合わせて点灯させるなど、セット裏は意外とアナログなんです。微妙なタイミングはやはり「人力」が一番信頼できます。

機能性を高め安全に配慮した二層構造のセット


柳川:セットにスケール感を出すために、長い廊下をデザインしたかったのですが、ここでもスタジオサイズの問題が出てきて。そこで監督には、セットを二層構造にして2階に医局を置くことで、医局の背景に下を走る長い廊下を映り込ませるという提案をしました。


二層のセットにはつきものの、いかに機能性を高めつつ安全を維持できるかという、構造と安全性両立の問題に頭を悩ませましたが、こだわった結果、躍動感のあるセットを作ることができました。2階部分に広い面積のセットを組むのは珍しいのですが、視聴者の方々には、そういった部分も併せてドラマを楽しんでいただきたいですね。
<プロフィール>
柳川和央/美術デザイナー
デザイナー歴30年
『黄昏流星群』『SUITS/スーツ』『モンテ・クリスト伯』『海月姫』などを担当。