生きることを丁寧に描いた医療ドラマという点で名作の中に堂々と並ぶ一作になった
3月19日(木)放送『アライブ がん専門医のカルテ』最終回
完全にラブストーリーじゃん!!
『アライブ』って、医療ドラマじゃなくて、ラブストーリーだったんですね!?
だってラブストーリーといえば、ずっと気になっていた佐倉さん(小川紗良)と結城先生(清原翔)の甘酸っぱい恋物語の結末ですよ。
だけどね、おじさんの僕はね、ちょっとイラっとしちゃったんだよね。だってね、おじさんはね、ずっと佐倉さんと結城先生を、応援してたし、見守ってきたけどもね、決して、結ばれて欲しいとまではね、思ってなかったんだよ?そりゃあ、佐倉さんには幸せになってもらいたいし、結城先生もすっごく素敵で優秀な男前だから、お似合いのカップルだよな…なんて思ってたけどもさ、いざ付き合うというところをさ、明確に見せつけられるとさ、おじさんには、ちょっと、まぶしすぎてさ、なんて言うか…辛い。
しかも、結ばれる瞬間が、
佐倉さん「もう消化器外科の先生だよね」
結城先生「うん」
佐倉先生「じゃあ、私は、結城先生の患者じゃないよね…」
結城先生「…(手を差し伸べる)」
二人は手をつなぎ笑顔で歩いていく…

くーッ!まぶしい!おじさんにはまぶしすぎる!ちょっと奇声出ちゃったよね。結城先生が手を伸ばした瞬間、変な声出ちゃったよね。おじさんは結城先生にはかなわんよ、あの性格とルックスであんなことされたらさ…くーッ!おじさんにも夢見さしてくれよ!…って、ただの嫉妬じゃねーかっていうね…。
佐倉さんと結城先生、幸せに…なれよ!!
ついつい、若人たちの青春の瞬きがまぶしすぎて嫉妬しすぎてしまいましたが、佐倉さんと結城先生以上に、完全にラブストーリーだったのは、心先生(松下奈緒)と薫先生(木村佳乃)ですよね。
後半の、あの思い出の屋上で、心先生が薫先生に向けて言った。
「私ね、いつか新薬を開発したいと思ってるの。この国に500万人以上いるがん患者さんのために。…薫先生のために」
くーッ!かっこいい!心先生、めちゃくちゃカッコいい。これ完全にプロポーズじゃん。その後、結構長い間見つめ合っててさ、ついでに熱い抱擁とか交わしたってなんら違和感なかったですよね。そのぐらい、グッと来ちゃう、熱いラブシーンでした。

だけど、なんていうか、ラブストーリーではあるんだけど、全然イヤらしくなくって、もう人間愛の世界。言うなればヒューマン・ラブストーリーでしたね。あの最高にかっこいいセリフを、男女の関係性で言ってたら、公私混同というか、ちょっと嘘くさくもなるし、嫌らしさがどうしても混じってくるからあんまり響かないけれど、これを信頼し合った女性同士の友情の延長で言わせるんだからすごく響くんですよね。あのセリフを視聴者に最も響く形にするために、これまで10話に渡って丁寧な人間ドラマを見せてきた…と言っても過言ではないくらいの名場面、名台詞でした。
とは言いつつ「心先生に新薬開発してもらいてー!!」って、邪念にまみれたことを一瞬想像してしまったことを告白します。そういう目線でみてしまって大変申し訳ございませんでした。
そして、そのラブをダメ押しするかのようなラスト。前回渡せなかった花束を満面の笑顔で渡しに行くとか美しすぎる繋がり。心先生、薫先生が待つ屋上へ、ちょっと小走りなんかしちゃったりして、その辺はもう完全にラブストーリーの型なのに、『アライブ』だと、俗語的なラブストーリーじゃなく、ヒューマン・ラブストーリーになるという凄さ。本当にいいドラマを見せていだたきました。


このレビューでも触れましたが、フジテレビは過去に『救命病棟24時』、『白い巨塔』、『Dr.コトー診療所』、『コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-』、『医龍-Team Medical Dragon-』、最近では『グッド・ドクター』と、医療モノはテッパンでハズレなしなんですよ。で、そのハズレなしたる所以は、医療ドラマの中にそれぞれ新しい何かを融合させたからなんです。だからこの『アライブ』も、これまで以上に克明に人間ドラマを紡ぎ、治療することよりもその先の生きることを丁寧に描いた医療ドラマという点で、フジテレビの名作たちの中に堂々と並ぶ一作になったと思います。
それは多くの人に見られたとかそういう類の指標ではなく、視聴者の記憶…少なくとも僕の記憶の中にしっかりと刻まれたことで証明されるんです。今後、僕が、ドラマ好きとしてフジテレビの医療ドラマを語るときは『アライブ』も絶対その中に入れます。入れたい!そんなドラマになりました。
そして、あんまりこういうこと言うと、感動ポルノドラマだと誤解されちゃいそうで言いたくはないんですが、これまでの医療ドラマの中で一番泣ける作品でした。あんなに毎週、泣きに泣いたのは、久しぶり…っていうか初めてかも。それは僕が年を取ったから…ではきっとないはず。

最後に、このドラマは医療ドラマが乱立していた中だったからこそ出来た作品なのかもしれません。もしそれが理由ではないにしろ、『アライブ』制作チームは、普通に何でも治せちゃう優秀なスーパードクターものや、新ジャンルだった“腫瘍内科”を舞台にしたHOW TO 1話完結もの、今作のストーリーラインを踏襲するなら、人の琴線に触れる部分を過剰に演出したもの、そのどれにも出来たことでしょう。そして、そうすることの方が簡単で、もしかしたら多くの人に見てもらう手段としては正しかったのかもしれません。だけど、そうはしなかった。その心意気に感謝します。
だって、さっきのようなお作法でつくられていたら、面白い作品にはなってたかもしれないけれど、これまで僕らが見て来た『アライブ』には出会えなかったんですからね。だから、その挑戦と志に拍手を送りたいのです。
そして何より、楽しい3ヵ月間をありがとうございました。
text by 大石 庸平 (テレビ視聴しつ 室長)