せきしろ×又吉直樹インタビュー「又吉くんは言葉に対するこだわりがすごい」
文学界の異才コンビ・せきしろと又吉直樹が、五七五の形式を破り自由な韻律で詠む自由律俳句集の第3弾「蕎麦湯が来ない」(マガジンハウス)を出版。その発売を記念して、4月3日(金)、「リミスタ インターネットサイン会」が行われた。

フジテレビュー!!では、このイベントの模様を独占取材。詩歌を愛するシャイなふたりの人柄が伝わってくるほのぼのとしたサイン会の様子をダイジェストでお届けする。
そして、サイン会終了後には、初の試みとなったネットサイン会の感想をはじめ、言葉の達人である彼らに「言葉と戯れる方法」や、お互いへの思いについて聞いた。
<「蕎麦湯が来ない」インターネットサイン会レポート>
インターネットサイン会は、PCやスマホがあれば全国どこからでも参加できるネット上のサイン会。サイトを通じて事前に書籍を購入すると、せきしろ・又吉のふたりが対象商品(「蕎麦湯が来ない」)にサインと日付、購入者のニックネームを書き、そのページをカメラに映しながら画面を通して呼びかけてくれる。
その様子がYouTubeで生配信され、後日、書籍が購入者の手元に届けられる仕組み。購入者は、画面越しに生の2人に会えた気分を味わえるわけだ。
サイン会が始まると、やや緊張した面持ちのせきしろと、いつも通りマイペースな又吉、司会のminan(lyrical school)がYouTubeライブに登場。
minanが購入者からのメッセージとニックネームを読み上げ、まずは又吉が本の表紙を開いてサインをし、次にせきしろがサイン。最後にそれを見せながら、「〇〇さん、書きました! 」(せきしろ)、「ありがとう!」(又吉)などと購入者に呼びかけていく。

購入者からの心温まるメッセージに答えながら、「こういうときは、なんかしゃべったほうがいいの?…早いね~、もう4月」(せきしろ)、「あっという間ですね」(又吉)と、ゆるやかにトークを展開。生配信中、視聴者からメールで届いたさまざまな質問にも丁寧に答えていった。
minanからお互いの句の好きなところを聞かれ、せきしろが「又吉くんは、僕が思いつかないことをやるので、そこは尊敬するな。普段何を見てるんだろう…って、心配になる」と回答。
対する又吉は、「僕のほうこそ!僕はせきしろさんの俳句、むちゃくちゃ好きですからね。影響も受けてますし」と言いつつ本を手に取り、「パッと開いたところにせきしろさんの句が…あっ、なかった!…」と、笑いを交えることも忘れない。

サインをもらった購入者からさっそくお礼のメールが届くと、2人はリアルタイムでリアクション。せきしろと又吉のファッションにまつわるトーク中、即興でユニークな自由律俳句が次々に誕生するなど、ネットサイン会ならではのサプライズが続いた。
屋外から夕方5時のチャイムが聞こえてきた数分後。約1時間でサイン会は終了。「『蕎麦湯が来ない』は3弾目ですが、2冊目を出した時から時間も経っていて、思い入れの強い句集になってます。ゆっくり楽しんでいただけたらと思いますね」(又吉)、「お願いします」(せきしろ)という言葉で締めくくった。
<せきしろ×又吉直樹 インタビュー>

――初のインターネットサイン会はいかがでしたか?
せきしろ:最初は本当に緊張しました。初めてなので、どうすればいいかわからなかったけど、やってるうちに、なんだろ…相手が目の前にいるような感じになりました。
又吉:現場に足を運んでもらえる通常のサイン会は、サインを書いている間だけしか相手とコミュニケーションできないですけど、ネットサイン会は最初から最後まで時間を共有できるのが大きな違い。参加してくれた一人一人と、ゆっくりお話しできている気がしました。
せきしろ:「遠くにいるけど参加できてうれしいです」っていう人もいたので、それも本当によかったなと。
又吉:九州から参加された方もいらっしゃいましたもんね。ありがたいです。
――「主人と小2の娘も大ファン」という方や、9歳の女の子も参加していましたね。
せきしろ:子どもにウケると思っていなかったので、実際にその子たちに会って、どのあたりがよかったのか聞いてみたい(笑)。すごく興味があります。
又吉:たぶん、そんなに難しくない句もあるでしょうし、いろんな句がある中で、そのどれかに反応してくれているのかもしれないですし。2、3年経って読むと、今度は違う句が気になってきたりとか。僕自身、人の本を読んでいてそういうことがあったりするんで。小学生に限らず、そういう楽しみ方をしてもらえてもうれしいですね。
「ボツになった句は、渡せなかったラブレターに近い」(せきしろ)

――「蕎麦湯が来ない」は、シリーズ3作目(※)。404句の自由律俳句と50編のエッセイが収録されていますが、かなり厳選してこの数になったとか。
※2009年に「カキフライが無いなら来なかった」、2010年に「まさかジープで来るとは」を発売。
せきしろ:すごい数を作ってるので。404句の3倍はある中から絞りました。
――選考過程で、どれがいいと感じるかは「時間が経つと変わってくる」と話していましたね。
せきしろ:夕方にいいと思っても、翌朝読むと違ったり。特に、夜ガーッと書いた句は、愛とか恋とかそんなんばっかりで、朝読み返すと恥ずかしくなっちゃう(笑)。渡せなかったラブレターに近いんじゃないですかね?
又吉:僕もそういうことはすごくあって。ちょっと時間をおいてから見たほうが冷静に見られます。感情的な句は特にそう。

――エッセイのタイトルも自由律俳句(※)ですが、エッセイとタイトルのどちらが先にできるのでしょうか?
※「大量の鳥の声がする木を見上げる」(せきしろ)、「実家が外くらい寒い」(又吉)といった自由律俳句がエッセイのタイトルになっている。
せきしろ:エッセイを書いて、それに合う句を見つけるほうが多いかもしれないですね。逆ももちろんあって、俳句から、その世界をもっと広げてエッセイにすることもわりとあります。
又吉:僕も同じで、エッセイを書いてから、そのエッセイの中で流れている時間の中の“何か”とか、その前後の“何か”をタイトルとして自由律俳句で作ることが多いです。
逆に、自由律俳句を作ったあとに、それがエッセイのもとになることもあります。エッセイの締め切りが近づいている時は、この本や過去の2冊をめくると、「このこと、まだ書いてなかった!」と思ってエッセイができることもあります。
2人が自由律俳句を詠む際のこだわりとは…?
2人がともに創作を始めたのは2008年のこと。自由律俳句の大家・尾崎放哉(おざき・ほうさい)を知って自由律俳句を作り始めたせきしろが、前々から「ギャグや言葉のセンスが面白いと感じていた」という又吉を居酒屋に呼び出し、「一緒にやろう」と誘ったのがキッカケだ。
文学好きの又吉も瞬く間に自由律俳句の虜になり、今に至る。

――自由律俳句はどんな時に思いつくのですか?
せきしろ:考えようと思って考えてはいない感じ。
又吉:自然に出てくるよね。僕の場合は日常の中で感じてることをメモする時もありますし、「よし、考えよう!」と思って考える時もあります。せきしろさんは、体験したことしか書きませんよね。
せきしろ:そう。見たもの、あったことを書くようにしています。自由律俳句はわりと“生の言葉”だと思ってるので。そこに創作を入れちゃうと、ちょっと自分が目指してるものではないかな、と感じる時があるんです。嘘っぽくならないようには気を付けています。
又吉:僕は、普通の「あるある」になりすぎないように、みんなが絶対に経験しているようなことではなく、自分が強く心に残ってる風景やモノやコトという、個人的なことを書くようにしています。あまりにも共感を狙いにいくのは自分の仕事ではないかな、と思っているので。
でも、結局人間なんで、そういうことを詠むと、まったく一緒じゃないけど近い経験ある、というふうになるのかな。
――お互いの「ここがすごい!」「マネできない!」と思う部分を教えてください。
せきしろ:いやぁ、単語一つ選ぶとこでも絶対マネできないですからね!又吉さんは。たとえば、僕が「ティッシュ」という単語にする時に、又吉さんは「ウエットティッシュ」にするとか(笑)。俺はそこ「ウエットティッシュ」にしないけど、そういう言葉に対する細かいこだわりがすごいなぁと思う。
又吉:せきしろさんは、視点もそうですし、「ああ、そこ見てたんか!」っていうところがあって。みんなが見ているところの真逆じゃなく、真逆の“ちょい手前”や“ちょい奥”を見ているところがすごい。みんなが見ているところの真逆は見つかりやすいんですよ。その途中も見えていたりするし。あと、人やモノとの距離が面白いですね。

――では、お互いの弱点はどんなところだと思いますか?
又吉:せきしろさんは、ちょっと優しすぎるところがあるかな、とは思いますけどね。例えば、自分のことより身近にいる人たちのことばっかり気にかけて、世話を焼いてるイメージがありますし。損得では仕事してない感じがあって…せきしろさんの仲いい何人かを人質にとったら、せきしろさんが能力を発揮できにくくなると思う(笑)。
せきしろ:今言ったことすべて、又吉くんにもあてはまるんで(笑)。だから、2人で何か食べにお店に行くと、「これ好きかな?」とかお互いすごく考えちゃって、結局何も選べなくなっちゃう。
又吉:うん。メニュー選ぶのがヘタ。
せきしろ:だから弱点ではないかもしれないけど、又吉くんの友人とかが人質にとられて「メニュー選べ!」って言われたら、すぐ選ばないとダメだよ、とは思います。
又吉:そうですね(笑)。
――「蕎麦湯が来ない」は読む人によってさまざまに味わえる1冊ですが、「こんな楽しみ方もあるよ」という読み方があったら教えていただけますか。
せきしろ:そうですね。前後に何があったのかな、というのも考えていただけるような句にしてあるので、「なんでこうなったんだろう」とか「このあとどうなったんだろう」とかいろいろ考えてもらえるとまた楽しいと思います。
又吉:僕も同じで、想像しながら楽しんでもらうと面白いかな?と思うのと、ご自身でも自由律俳句を作られるといいかなと。自分で作るようになると、人の作品を読んだ時に「なるほど、こう表現すんのや」とか、「似たようなことは感じたけど、この言葉では切りとれなかったな」みたいなことがあって、より面白くなるので。

――素人が自由律俳句を書くコツはありますか?
又吉:自由律俳句のイメージを感じるには、尾崎放哉や山頭火の句は読んだほうがいいかもしれないですね。五七五のリズムとはまた別の、「こういうリズムがあるんや!」という発見があるでしょうから。自由律俳句も詩歌なんで、歌としての格好がズレちゃうと、散文みたいになるというか、説明になっちゃったりするので。
せきしろ:あとは、みんなはみんなの視点で書けばいいんじゃないかな。俺たちでは思いつかない表現が絶対できると思う。
又吉:食も好みも人それぞれですしね。ぜひやってみてください!
取材・文/浜野雪江